本報告書は、2026年度(令和8年度)の中学入学者選抜において、特に公立中高一貫校および主要な私立中学校が公表した一次情報に基づき、制度的な変更とその戦略的意味合いを詳細に分析することを目的としています。

対象地域

  • 首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を主軸
  • 関西の主要な公立校の動向(大阪府)も網羅

一次情報

  1. 要綱・要領・募集要項の公開および改定(制度変更)
  2. 出願方式の変更(インターネット出願化など)
  3. 志願者数・倍率・受検状況に関する数値の確定および予告
  4. 適性検査の問題・採点資料の公開
  5. 協会や都道府県による学校数・募集人員などの取りまとめ更新

目次
    1. 1.2 2026年度入試における三大潮流
      1. 潮流A:公立政策の「アンカーリング」と不確実性の併存
      2. 潮流B:選抜方法の再定義―学力評価への回帰
      3. 潮流C:出願プロセスのDX化の加速
  1. II. 公立中高一貫校:政策と日程の確定
    1. 2.1 東京都立中高一貫校 R8実施要綱の徹底解説
      1. 検査日程の確定
      2. 厳格化された出願方式
      3. 主要ポイント一覧表
    2. 2.2 定員構造の根本的な変更:35人学級導入の影響
    3. 2.3 関東・関西公立校のデジタル化動向
      1. Web出願の完全移行
      2. 周辺手続きのオンライン化
  2. III. 私立中学入試:募集要項と試験方式の戦略的改定
    1. 3.1 私立校協会による全体像の公開
    2. 3.2 主要な試験方式の変更点
      1. 面接・人物考査の全面廃止(難関女子校)
      2. 試験科目の多様化と国際化への対応
      3. 定員調整と試験回次戦略
      4. 主要な変更点一覧表
    3. 3.3 コース編成と学校体制の再編
      1. 東京女学館の戦略的変更
      2. 東京都市大学付属のコース一本化
      3. 共学化の動き
  3. IV. 志願者数・倍率分析に向けたデータモニタリング
    1. 4.1 一次情報としての数値データの公開パターン
    2. 4.2 受験戦略における残る未確定要素
      1. 1. 各校ごとの最終募集人員(公立)
      2. 2. 各私立校の最終募集要項とWeb出願の詳細
  4. V. 結論と戦略的勧告
    1. 5.1 保護者・教育機関への実践的アドバイス
      1. 公立受験者への勧告
      2. 私立受験者への勧告
    2. 5.2 教育トレンドの将来予測
      1. 選抜の合理化
      2. 教育機会の専門化
      3. 今後の教育機関のポジショニング
  5. 参考資料

1.2 2026年度入試における三大潮流

潮流A:公立政策の「アンカーリング」と不確実性の併存

東京都では、都立中高一貫校の入学者決定に関する実施要綱が早期に公表され、検査日程や厳格な出願手続きが固定されました。これは受験生にとって日程計画を立てる上での安心材料となります。

一方で、東京都の公立中学校における**「35人学級」導入政策**により、具体的な募集人員の総枠が秋以降まで不確定となるという、構造的な不確実性が併存しています。

潮流B:選抜方法の再定義―学力評価への回帰

首都圏の難関私立女子校において、面接や人物考査といった定性的な選抜要素を廃止する動きが顕著になっています。この変化は、選抜プロセスを学力試験の結果に完全に委ねるという学校側の姿勢を示しており、試験の透明性を高めると同時に、思考力・記述力対策の重要性を一層高めるものです。

潮流C:出願プロセスのDX化の加速

公立・私立を問わず、出願手続きのデジタル化、特にWeb出願の義務化が全国的に加速しています。

  • 都立中高一貫校:インターネット入力と郵送の二段構え
  • 栃木県立中・大阪府立中:完全Web出願への移行
  • 得点開示や受検票交付のオンライン化

これらは、受験における手続き面のデジタルリテラシー要求を高めています。


II. 公立中高一貫校:政策と日程の確定

2.1 東京都立中高一貫校 R8実施要綱の徹底解説

東京都教育委員会は、2025年6月12日に「令和8年度東京都立中等教育学校及び東京都立中学校入学者決定に関する実施要綱・同細目について」を公表しました。

対象校(合計10校)

  • 中等教育学校:小石川、桜修館、南多摩、立川国際、三鷹(5校)
  • 併設型都立中学校:白鷗、両国、富士、大泉、武蔵(5校)

検査日程の確定

募集枠検査日対象校
一般枠募集2026年2月3日(火)中等教育学校(5校)
特別枠募集・併設型2026年2月1日(日)併設型都立中学校など

戦略的意味

  • 2月3日という検査日程の確定は、私立難関校の併願戦略を決定づける「アンカー」となります
  • 2月1日の併設型都立中を受検する場合、同日に行われる主要な私立校の入試との両立は不可能

厳格化された出願方式

二段階プロセス(両方必須)

  1. インターネット上での情報入力
    • 期間:令和7年12月18日(木)~令和8年1月16日(金)17:00
  2. 書類を特定記録郵便で郵送
    • 期間:令和8年1月9日(金)~1月16日(金)必着

重要な注意点

  • どちらか一方だけでは受付が成立しない
  • 窓口持参は認められない
  • 郵送の締切日は「必着」要件

主要ポイント一覧表

要綱の柱詳細内容(2026年度)留意事項
検査日程(一般枠)2026年2月3日(火)中等教育学校(5校)の標準日程
検査日程(特別枠/併設型)2026年2月1日(日)併設型都立中(5校)および中等教育学校特別枠
出願方式インターネット入力(12/18~1/16)+書類郵送(1/9~1/16 必着)二段構え必須。窓口持参不可
定員構造変更35人学級の導入方針を明記募集人員は秋以降に確定。前年定員の流用は不可
合格発表日(一般枠)2月9日(月)など(学校により異なる)枠ごとに別日程

2.2 定員構造の根本的な変更:35人学級導入の影響

都立中学校についても、令和7年度現在の学級数に35人学級を当てはめた形で募集人員を定める方針が示されています。

構造的インパクト

  • 教育環境の改善が主目的だが、結果として公立難関校の募集総枠が縮小
  • 前年度の40人学級ベースの定員をそのまま流用して受験戦略を立てることは危険
  • 定員が減少すれば、受検生の層が変わらずとも倍率は上昇し、競争が激化
  • 私立併願校の確保をより慎重に行う必要性が増大

確定時期 具体的な各校の募集人員は、秋の募集要項公表をもって確定します。


2.3 関東・関西公立校のデジタル化動向

Web出願の完全移行

2026年度から完全Web出願を採用

  • 栃木県立中3校
  • 大阪府立中

これらの公立校が、私立校で実績のある共通のWeb出願システムを採用することで、手続き面での公立・私立間の差は縮小しつつあります。

周辺手続きのオンライン化

  • 本人得点開示請求:電子申請(オンライン前提)に移行
  • 受検票の交付:マイページからの自己印刷が主流に

受験家庭への要求 このDX化の加速は、すべての受験生に一定水準のデジタル環境とリテラシーを要求します。システムの利用方法やプリンター出力の準備など、デジタル関連の実務を家庭および指導塾側が早期に整える必要があります。


III. 私立中学入試:募集要項と試験方式の戦略的改定

3.1 私立校協会による全体像の公開

私立中学の入試情報は、東京都生活文化スポーツ局や私学協会などの公的な取りまとめによって確認されます。これらの協会発表情報は、各校の募集枠の総数や動向を把握するための重要な一次情報となります。


3.2 主要な試験方式の変更点

面接・人物考査の全面廃止(難関女子校)

複数の伝統的な難関女子校が、面接や人物考査の選抜要素を廃止することを発表しました。

学校名変更内容
フェリス女学院2026年度より人物考査(筆記および面接)を廃止
白百合学園2026年度より面接を廃止
頌栄女子学院第1回および第2回入試の面接を廃止

背景と意味

  • 評価の主観性を排除し、選抜プロセスを完全に学力試験の結果に委ねる
  • 学力試験の公平性を重視する姿勢を明確化
  • 思考力や表現力を問う記述問題への対策の重要性が一層増大

試験科目の多様化と国際化への対応

頌栄女子学院の事例

  • 面接廃止と並行して、第1回および第2回入試に英語利用入試を導入
  • 算数および国語の得点に、英検取得級に応じた加点を行う方式
  • 4教科入試との併願も可能

この形式は、学校側の国際的な教育目標を強化し、特定の技能を持つ受験生を早期に確保するための「ハイブリッド型選抜」として機能します。

定員調整と試験回次戦略

吉祥女子の事例

  • 第1回の定員:プラス10名の144名
  • 第2回の定員:マイナス10名の90名

戦略的意図 第1回入試の定員を増やすという調整は、受験シーズン初期(2月1日)に優秀な受験生をより多く確保したいという学校側の明確な戦略の表れです。

主要な変更点一覧表

学校名変更カテゴリー具体的な変更内容(2026年度)
フェリス女学院選抜方法の廃止人物考査(筆記および面接)を廃止
白百合学園選抜方法の廃止面接を廃止
頌栄女子学院選抜方法の変更第1回・第2回の面接を廃止。英語利用入試(英検加点)を導入
東京女学館学級編成の戦略的変更一般学級(5→4クラス)、国際学級(1→2クラス)に編成変更。国際募集人員倍増
東京都市大学付属コース構造の単純化Ⅰ類・Ⅱ類のコース編成を一本化
吉祥女子定員調整の戦略第1回定員を+10名に、第2回定員を-10名に変更

3.3 コース編成と学校体制の再編

東京女学館の戦略的変更

学級編成の変更(1学年6クラスは維持)

  • 一般学級:5クラス → 4クラス(募集人員100名)
  • 国際学級:1クラス → 2クラス(募集人員60名)

戦略的評価 国際学級の募集人員を倍増させることで、学校の教育ブランドを国際教育分野にシフトし、特定分野へのリソース集中による教育効果の最大化を狙う大胆な経営戦略です。伝統的な一般枠の縮小は、その枠における競争激化を意味します。

東京都市大学付属のコース一本化

2026年度よりⅠ類・Ⅱ類のコース編成を一本化。

効果

  • 受験生にとっての選択の複雑性を低減
  • 入学後の指導の柔軟性を高める

共学化の動き

少子化の中で志願者層を拡大し、学校運営の安定化を図るため、複数の女子校や男子校が2026年度より共学化を発表しています。

共学化を発表した学校(一部)

  • 英明フロンティア
  • 盛岡白百合学園
  • 鹿児島県立楠隼
  • 園田学園

IV. 志願者数・倍率分析に向けたデータモニタリング

4.1 一次情報としての数値データの公開パターン

現時点で、公立・私立の最終的な志願者数や倍率に関する数値データは不足していますが、これらの情報は特定機関から定型化されたプロセスで公開されます。

公開の形態

  • 公立校:各自治体からの記者発表
  • 適性検査:大阪府立中では適性検査の問題だけでなく、採点資料も公開

採点資料は、出題傾向だけでなく、学校側が求める記述レベルや思考プロセスの基準を公式に理解するために不可欠な資料です。


4.2 受験戦略における残る未確定要素

受験の全体像を完成させ、戦略の最終調整を行うためには、以下の未確定情報の公開を待つ必要があります。

1. 各校ごとの最終募集人員(公立)

都立中高一貫校における35人学級適用後の具体的な定員数は、秋の募集要項公表をもって確定します。この数値は、公立第一志望者の併願戦略に直接的な影響を与えるため、最も重要な情報の一つです。

2. 各私立校の最終募集要項とWeb出願の詳細

個別の学校公式から、以下が詳細に公開されます。

  • 出願に必要な書類の正式な様式
  • 受験料
  • Web出願システムの操作手順

特にWeb出願への移行が進む中、システム利用における細かな注意点を確認することは、手続き上のミスを避けるために不可欠です。


V. 結論と戦略的勧告

5.1 保護者・教育機関への実践的アドバイス

2026年度入試の制度変更動向は、「選抜の合理化」と「教育機会の専門化」という二大潮流を明確に示しています。

公立受験者への勧告

リスク分散戦略の重要性

  • 東京都の35人学級導入方針により、公立難関校の募集人員が減少する可能性が高い
  • 公立第一志望者であっても、併願校の設定においては私立の1月入試などを積極的に活用
  • リスクを分散させる戦略が極めて重要

手続き管理の徹底

  • 都立の出願はインターネット入力と郵送の二段構え
  • 窓口持参が認められないなど手続きが厳格化
  • デジタル出願のプロセス管理を早期に習熟
  • 郵送必着の期限を厳守するなど、手続きミスを徹底的に排除

私立受験者への勧告

学力試験への完全依存

難関女子校における面接・人物考査の廃止により、合否は学力試験の結果に完全に依存します。

重点対策分野

  • 基礎学力の徹底
  • 思考力、論理構成力、表現力を問う記述対策
  • 試験時間内でアウトプットを完遂できる記述技術

単なる知識量ではなく、実践的なアウトプット能力が合格の鍵となります。


5.2 教育トレンドの将来予測

R8入試の動向は、中学受験市場が**「選抜効率の向上」「学校ごとの教育特色の明確化」**という二方向に進化していることを示唆しています。

選抜の合理化

  • 受験生にとっての評価基準の透明性が向上
  • 面接・人物考査の廃止により、受験指導側の指導目標が学力試験に集中
  • 曖昧さを排する効果

教育機会の専門化

  • 国際学級の増設(東京女学館)
  • 英語利用入試の導入(頌栄女子学院)
  • 特定の分野(国際教育、STEMなど)に強みを持つ学校が、その教育機会をさらに専門化
  • その分野に特化した優秀な受験生を早期に確保する戦略

今後の教育機関のポジショニング

共学化やコースの一本化といった学校体制の変更も併せ、今後の教育機関は、単に「進学校」として位置づけられるだけでなく、特定の教育ニーズに応える**「ニッチ・スペシャリスト」**としてのポジショニングを確立していくことが、市場競争を生き抜くための重要な戦略的要素となるでしょう。


参考資料

shijyukukai.jp都立中高一貫校、2026年度入試日程を発表 35人学級を導入へ | 月刊私塾界新しいウィンドウで開くchukoikkan.jp【2026 都立中高一貫】令和8年度「実施要綱・同細目」公表ページ …新しいウィンドウで開くyotsuyaotsuka.com2026年入試変更点(5/1更新)新しいウィンドウで開くchukoikkan.jp【2026年度から完全Web出願へ】栃木県立中3校がインターネット志願を正式採用―手続きフローと注意点を解説 | 中高一貫ナビ新しいウィンドウで開くmirai-compass.jp.netmiraicompass導入校一覧新しいウィンドウで開くysmedia.jp〈2026年度入試〉東京都 「私立高入試要項一覧」発表-令和8年度 – よみうり進学メディア新しいウィンドウで開くtjk.jp令和8年度(2026年度)中学入試の変更点について | 東京女学館 中学校・高等学校新しいウィンドウで開くyotsuyaotsuka.com2026年入試変更点(3/28更新)

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