中学入試の「倍率」には二つの数字がある。学校が募集要項や入試結果で先に示す応募倍率(名目倍率)は、応募者数を募集人員で割ったものだ。一方、実際の競争の強さを表すのは実質倍率で、その日に試験会場へ来た受験者数を合格者数で割る。2026年度(令和8年度)入試の結果を公表した首都圏の私立10校を集計すると、この二つは同じ入試でも大きく食い違い、差は最大で33ポイントに達した。

差が生まれる原因は単純で、出願したのに受験しない人が多いことにある。2月1日に第一志望校に合格すれば、押さえで出願していた2月3日・2月4日の入試は受けない。その分だけ応募者数は実際の受験者数より膨らみ、応募倍率は実態より高く出る。本稿では各校が公表した応募者数・受験者数・合格者数をそのまま並べ、受験率(受験者数÷応募者数)と実質倍率を学校別・日程別に整理する。

応募倍率と実質倍率の計算式

まず用語を確認しておく。学校によって呼び方が違うため、同じ数字が別の名前で出てくることがある。

名称 計算式 備考
応募倍率(名目倍率) 応募者数 ÷ 募集人員 出願した人数がもとになる。学校サイトでは単に「倍率」と書かれることが多い
実質倍率 受験者数 ÷ 合格者数 当日受験した人数がもとになる。「実倍率」と書く学校もある
受験率 受験者数 ÷ 応募者数 出願者のうち何割が実際に受験したか。山脇学園・森村学園は要項と同じページで公表している

注意したいのは、学校が示す「倍率」がどちらを指すのかページによって変わる点だ。鎌倉学園の入試結果ページは「倍率」と「実質倍率」を別の行で並べており、算数選抜(2月1日)は倍率11.9倍・実質倍率2.5倍と、同じ入試で二つの数字が併記されている。富士見も「倍率」と「実質倍率」を上下に並べる様式だ。

10校の応募者・受験者・合格者と受験率(2026年度)

各校が公表した数値をそのまま転記し、受験率と実質倍率を算出した。募集人員が回ごとに切り分けられていない入試(攻玉社の特別選抜、山脇学園、栄東)は応募倍率の欄を「-」としている。

学校 入試回 募集人員 応募者 受験者 合格者 受験率 応募倍率 実質倍率
成城中学校 第1回(2/1) 100 410 368 133 89.8% 4.1 2.8
成城中学校 第2回(2/3) 140 1,049 642 230 61.2% 7.5 2.8
成城中学校 第3回(2/5) 40 818 449 71 54.9% 20.4 6.3
攻玉社 第1回(2/1) 90 422 387 158 91.7% 4.7 2.4
攻玉社 第2回(2/2) 70 693 432 173 62.3% 9.9 2.5
攻玉社 特別選抜A方式(2/5) – 160 120 24 75.0% – 5.0
攻玉社 特別選抜B方式(2/5) – 197 142 28 72.1% – 5.1
森村学園 第1回(2/1) 40 132 116 56 87.9% 3.3 2.1
森村学園 第2回(2/2) 30 245 176 64 71.8% 8.2 2.8
森村学園 第3回(2/4) 20 261 134 31 51.3% 13.1 4.3
富士見 第1回(2/1) 100 339 325 134 95.9% 3.4 2.4
富士見 第2回(2/2) 80 398 313 140 78.6% 5.0 2.2
富士見 午後(算数1教科) 20 161 116 68 72.0% 8.1 1.7
富士見 第3回(2/3) 40 295 172 52 58.3% 7.4 3.3
鎌倉学園 算数選抜(2/1) 10 119 109 43 91.6% 11.9 2.5
鎌倉学園 1次(2/1) 100 309 298 141 96.4% 3.09 2.1
鎌倉学園 2次(2/2) 30 317 272 69 85.8% 10.6 3.9
鎌倉学園 3次(2/4) 30 275 246 45 89.5% 9.2 5.5
大妻中野中学校 第1回(2/1) 約55 139 120 58 86.3% 2.5 2.1
大妻中野中学校 第2回(2/1午後) 約50 411 365 235 88.8% 8.2 1.6
大妻中野中学校 第3回(2/2午後) 約45 392 222 119 56.6% 8.7 1.9
大妻中野中学校 第4回(2/3) 約25 255 107 52 42.0% 10.2 2.1
大妻中野中学校 第5回(2/4) 約10 270 90 23 33.3% 27.0 3.9
山脇学園 A(2/1)4教科 – 328 310 72 94.5% – 4.3
山脇学園 B(2/2)2教科 – 702 571 134 81.3% – 4.3
山脇学園 C(2/4)4教科 – 592 444 64 75.0% – 6.9
東京農業大学第一 第1回(2/1午前) 約40 417 303 80 72.7% 10.4 3.8
東京農業大学第一 第2回(2/1午後) 約85 1,017 910 419 89.5% 12.0 2.2
東京農業大学第一 第3回(2/2午後) 約60 1,220 717 183 58.8% 20.3 3.9
東京農業大学第一 第4回(2/4午前) 約15 798 381 19 47.7% 53.2 20.1
栄東 I入試(1/10) – 4,739 4,546 2,993 95.9% – 1.5
栄東 II入試(1/11) – 3,186 2,937 1,482 92.2% – 2.0
栄東 東大特待4科(1/12) – 1,066 943 500 88.5% – 1.9
栄東 III入試(1/16) – 2,883 1,777 972 61.6% – 1.8
香蘭女学校 2/1 4科 100 355 338 118 95.2% 3.5 2.9
香蘭女学校 2/2 2科 60 610 466 126 76.4% 10.2 3.7

応募倍率と実質倍率が自校サイトに併記されている森村学園・富士見・鎌倉学園・山脇学園については、上表の数値は学校公表値と一致する。それ以外の学校は公表された実数から算出した。

差が最も大きかったのは東京農業大学第一の第4回

応募倍率と実質倍率の開きが最大だったのは東京農業大学第一の第4回(2月4日午前)で、募集約15人に798人が出願し応募倍率は53.2倍。しかし当日の受験者は381人(受験率47.7%)で、合格者19人に対する実質倍率は20.1倍だった。差は33.1ポイントにのぼる。同校は第3回(2月2日午後)でも応募1,220人・受験717人(受験率58.8%)で、応募倍率20.3倍に対し実質倍率3.9倍である。

受験率そのものが最も低かったのは大妻中野中学校の第5回(2月4日)で33.3%。応募270人のうち当日会場に来たのは90人だった。募集約10人に対する応募倍率は27.0倍だが、合格23人で実質倍率は3.9倍にとどまる。成城中学校の第3回(2月5日)も応募818人・受験449人(受験率54.9%)で、応募倍率20.4倍・実質倍率6.3倍だった。

学校・入試回 応募倍率 実質倍率 差(ポイント)
東京農業大学第一 第4回(2/4午前) 53.2 20.1 33.1
大妻中野中学校 第5回(2/4) 27.0 3.9 23.1
東京農業大学第一 第3回(2/2午後) 20.3 3.9 16.4
成城中学校 第3回(2/5) 20.4 6.3 14.1
東京農業大学第一 第2回(2/1午後) 12.0 2.2 9.8
鎌倉学園 算数選抜(2/1) 11.9 2.5 9.4
森村学園 第3回(2/4) 13.1 4.3 8.7
大妻中野中学校 第4回(2/3) 10.2 2.1 8.1

2月1日と後半日程で受験率はどう変わるか

同じ学校の中で日程順に受験率を並べると、後半日程ほど下がる傾向がはっきり出る。2月1日の入試は第一志望として出願する人が多いため受験率が高く、2月3日以降は他校の合格が出た分だけ欠席が増える。

学校 2月1日 2月2日前後 2月3日以降
成城中学校 89.8%(第1回) – 61.2%(第2回2/3)/54.9%(第3回2/5)
攻玉社 91.7%(第1回) 62.3%(第2回) 75.0%/72.1%(特別選抜2/5)
森村学園 87.9%(第1回) 71.8%(第2回) 51.3%(第3回2/4)
富士見 95.9%(第1回) 78.6%(第2回) 58.3%(第3回2/3)
大妻中野中学校 86.3%/88.8%(第1・2回) 56.6%(第3回) 42.0%(第4回)/33.3%(第5回)
山脇学園 94.5%(A) 81.3%(B) 75.0%(C 2/4)
香蘭女学校 95.2% 76.4% –

例外もある。鎌倉学園は3次(2月4日)でも受験率89.5%を保っており、2次85.8%より高い。同校は2026年度の算数選抜・1次・2次・3次すべてで受験率が85%を超えた。逆に攻玉社は第2回(2月2日)の受験率62.3%が第1回91.7%から大きく落ちる一方、2月5日の特別選抜はA方式75.0%・B方式72.1%で第2回より高い。日程の遅さだけで受験率が決まるわけではなく、その入試が第一志望層の併願設計にどう組み込まれているかが影響する。

1月入試の埼玉は受験率が高い ── 栄東の1万2千人

埼玉の1月入試は、東京・神奈川の2月入試に向けた「お試し受験」として受験されることが多く、受験率は2月の後半日程より高い。栄東中学校の令和8年度入試は応募者12,081人・受験者10,380人・合格者5,996人で、全体の受験率は85.9%、実質倍率は1.73倍だった。

ただし同じ学校の中でも後半の回は下がる。1月10日のI入試は受験率95.9%だが、1月16日のIII入試は61.6%にとどまる。I入試・II入試・東大特待で合格を得た受験生が、1月16日には受験しないためだ。

栄東 入試回 応募者 受験者 受験率 合格者 実質倍率
I入試(1/10) 4,739 4,546 95.9% 2,993 1.5
II入試(1/11) 3,186 2,937 92.2% 1,482 2.0
東大特待4科(1/12) 1,066 943 88.5% 500 1.9
III入試(1/16) 2,883 1,777 61.6% 972 1.8
全体(帰国生・算数1教科を含む) 12,081 10,380 85.9% 5,996 1.73

保護者・受験生への影響と対策

1. 募集要項の「倍率」だけで出願先を決めない。 募集人員が少ない後半日程は、応募者が集まると応募倍率が二桁になる。しかし上表のとおり、実質倍率は2倍台から6倍台に収まる学校が多い。東京農業大学第一の第4回のように実質倍率20倍という例もあるため、応募倍率が高いこと自体を軽視してよいわけではないが、判断材料は実質倍率に置きたい。

2. 過去の入試結果ページで実質倍率を確認する。 本稿で参照した10校は、いずれも学校公式サイトに応募者数・受験者数・合格者数を掲載している。志望校が公表しているかどうかは、学校トップページから「入試結果」「結果データ」「過去の入試状況」といったリンクをたどれば確認できる。公表していない学校もあり、その場合は応募倍率しか分からない。

3. 後半日程は「受けに来る人数」が読みにくいと理解する。 受験率が40〜50%台になる入試では、当日の母集団が出願時点の半分以下になる。残るのは前半で合格を得られなかった層で、学力層が偏る可能性がある。実質倍率が下がっても競争が楽になるとは限らない。

4. 複数回出願の検定料は「受けなかった分」が戻るか確認する。 後半日程を押さえで出願する前提なら、未受験分の検定料の扱いは出願前に調べておきたい。返金規定は学校ごとに異なる。

今後のスケジュール

時期 内容
2026年11月〜12月 各校の2027年度(令和9年度)募集要項が出そろう。応募倍率の前提となる募集人員はここで確定する
2026年12月1日ごろ 埼玉の学校で出願受付が始まる。栄東は令和9年度募集要項でインターネット出願を令和8年12月1日(火)10:00開始と明記している
2027年1月10日〜 埼玉入試が開始。栄東I入試などの応募者数が各校から発表される
2027年1月中旬 埼玉県が県内私立中の応募状況(志願者数)を公表予定
2027年1月20日〜 千葉入試が開始
2027年2月1日〜 東京・神奈川入試が開始。2027年度は2月1日が月曜日
2027年2月〜4月 各校が2027年度の入試結果(応募者・受験者・合格者)を公表。実質倍率が判明する

よくある質問

応募倍率が20倍を超える入試は避けたほうがよいですか

応募倍率が高い入試は募集人員が少ない後半日程に集中しており、実質倍率は大きく下がることが多い。2026年度では成城中学校の第3回が応募倍率20.4倍に対し実質倍率6.3倍、東京農業大学第一の第3回が20.3倍に対し3.9倍だった。一方で同校の第4回は実質倍率20.1倍で、応募倍率53.2倍に見合う厳しさが残った。応募倍率だけでは判断できないため、過去の実質倍率を確認してから決めたい。

受験率が低い入試は「欠席が多い=受かりやすい」ということですか

必ずしもそうではない。受験率が下がるのは、すでに他校で合格を得た受験生が来なくなるためで、当日の母集団は前半日程で合格を得られなかった層に寄る。合格者数も後半日程では絞られることが多く、大妻中野中学校の第5回は受験90人に対し合格23人(実質倍率3.9倍)だった。欠席の多さと合格しやすさは別の話として扱うほうが安全だ。

実質倍率を公表していない学校の競争率はどう見ればよいですか

応募者数と合格者数だけが公表されている場合は、応募者数÷合格者数で計算した値が上限、実際の実質倍率はそれより低くなる。受験率の目安としては、本稿の集計では2月1日の入試が86〜96%、2月2日前後が56〜86%、2月3日以降が33〜75%だった。同じ学校の前年・前々年の結果が公表されていれば、日程ごとの傾向は年度をまたいでおおむね似た水準になるため参考にできる。

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出典

最終更新: 2026年10月27日。掲載内容は出典時点の公表情報に基づきます。最新の募集要項は各校公式サイトで必ずご確認ください。

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合格之助(中村先生)

中学受験専門塾で長年、受験生と保護者の進路相談を担当している中村です。偏差値・倍率・過去問傾向・学校ごとの出題特徴をもとに、志望校選びをわかりやすくサポートしています。

特に得意なのは、単に偏差値だけで学校を判断するのではなく、
「倍率」「受験者数の推移」「合格可能性」「併願パターン」まで含めて、一人ひとりに合った本当に狙いやすい学校を見つけることです。